熱中症対策の話題が出るたびに耳にする「暑さ指数(WBGT)」という言葉。
なんとなく聞いたことはあっても、「実際にどう活かせばいいのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
暑さ指数は、単に「今日は暑いな」といった感覚に頼るのではなく、暑さの「本当の危険度」を数値で把握し、的確な判断を促すための指標です。
この記事では、暑さ指数とは何か?という基本から、それが分かることで何ができるのか?どう現場で活用するのか?という実務につながる視点までを、分かりやすく解説します。
- 暑さ指数(WBGT)の正確な意味と計算方法
- 熱中症との関係、なぜ気温より重要なのか
- 具体的な数値基準と対応行動
- 測定器・アプリ・掲示など企業での活用法
- 法改正・安全衛生規則との関係
暑さ指数とは?|気温との違いと基本構造を理解する
「暑さ指数(WBGT)」とは、気温・湿度・輻射熱(直射日光など)という3つの要素を組み合わせて、暑熱環境の危険度を数値化した指標です。
英語では「Wet Bulb Globe Temperature」と表記され、アメリカ軍が訓練時の熱中症リスク管理のために開発したものが起源です。
通常の気温は「空気の温度」だけを表しますが、暑さ指数は「身体にかかる暑さの総合的な負荷」を示すため、より実際的で危険察知に役立つ値として注目されています。
たとえば、気温が30℃でも湿度が高くて風が弱く、直射日光がある場所では、WBGTは簡単に「厳重警戒」レベルを超えることがあります。
なぜ重要?暑さ指数で「危険」が数値化できる理由
「今日は暑いから気をつけよう」という曖昧な表現では、対策は人任せになり、危険な状況に気づけないことがあります。
暑さ指数(WBGT)を導入することで、暑熱環境の危険度を誰もが共通の「基準値」として理解できるようになります。
これは、現場での判断や上司への報告、作業の中止・休憩判断を迅速かつ的確に行う上で非常に重要です。
さらに、厚生労働省や環境省などの行政機関もWBGTを基準に熱中症予防の指針を提示しており、すでに法令やガイドラインの中核的な指標となっています。
特に企業においては「リスクの可視化」=「労働災害の予防」であり、暑さ指数を活用することが、働く人の安全と会社の信頼を守る手段となるのです。
どこから危険?基準値と行動目安を把握しよう
暑さ指数が示す数値は、単なる「数字」ではなく、「どのような行動をとるべきか」の目安にもなります。これは環境省や厚労省のガイドラインにも基づいており、作業現場の安全管理に直接活用できます。
以下は、暑さ指数(WBGT)の代表的な基準と、それぞれのレベルに応じた対応行動の例です:
WBGT(℃) | 危険レベル | 対応行動の目安 |
---|---|---|
31以上 | 危険 | 原則中止、屋外作業は厳禁、冷房下での休息を徹底 |
28〜31 | 厳重警戒 | 高齢者は運動中止、一般作業は休憩を頻繁に取る |
25〜28 | 警戒 | 水分・塩分補給を徹底、30分に1回は休憩を推奨 |
21〜25 | 注意 | 激しい作業は控えめに、こまめな水分補給 |
21未満 | ほぼ安全 | 通常作業可(ただし油断せず体調確認) |
このように、暑さ指数は単なる測定値ではなく「行動基準」として活用されるべきものです。
現場では、WBGTの値に応じて作業中止、休憩、作業シフトの変更など柔軟な判断を下すことが、事故を防ぐ鍵となります。
どう測る?暑さ指数の測定方法とツール紹介
暑さ指数(WBGT)は、「測って終わり」ではなく、正確に測る方法と継続的な運用がポイントになります。ここでは、測定方法の基本と、現場で使えるツールについて紹介します。
測定方法の基本
WBGTの算出には、以下3つの要素が必要です:
- 黒球温度(輻射熱):直射日光や周囲からの熱放射の影響
- 湿球温度(湿度):蒸発による冷却の指標(湿度が高いと体温が下がりにくい)
- 乾球温度(気温):通常の気温
これらを計測して、
- 屋外(直射日光あり)では:WBGT = 0.7×湿球 + 0.2×黒球 + 0.1×乾球
- 屋内(直射日光なし)では:WBGT = 0.7×湿球 + 0.3×黒球
といった計算式で算出されます(※市販の測定器では自動計算されます)。
測定器の種類と特徴
実際に使われている測定機器には以下のような種類があります:
- 簡易型WBGTモニター:現場の温度をデジタル表示で確認でき、1万円前後から購入可能
- 本格的な据え置き型WBGT計:黒球・湿球・乾球の3点センサーを搭載し、環境省基準対応、数万円〜十数万円
- クラウド連携型モニタリングシステム:工場・現場で24時間リアルタイムにWBGT値を記録・共有できる
- スマートフォンアプリ:気象庁や環境省が提供するWBGT速報値を取得でき、簡易的な目安に便利
測定の注意点
- 測定場所は作業者の胸の高さ(1.1〜1.5m)が基本
- 直射日光や風の影響を避けた正確な位置取りが必要
- 朝・昼・午後の最低3回、または1〜2時間おきの測定が推奨
暑さ指数は“見て分かるリスク”を提供するため、測定の精度と頻度が信頼性を左右します。現場に合わせて適切なツールを選定し、正しく運用する体制づくりが求められます。
企業での活用法|現場管理・掲示・マニュアルへの落とし込み
暑さ指数(WBGT)の数値が分かっても、それを「どう活用するか」が対策の成否を左右します。
ここでは、企業がWBGTを活かして現場での安全体制を築くための具体的な方法を紹介します。
掲示・共有で「気付く」職場づくりを
WBGT値を測定するだけでなく、それを「見える化」することが重要です。
- 現場の出入口や休憩所、作業場にWBGTモニターや掲示板を設置
- 朝礼やチームミーティングでその日のWBGT値を共有
- 社内チャットや掲示アプリで定期的にWBGTを通知
こうした工夫により、作業者が「今日は暑さが危険なレベルだ」と意識できるようになります。
マニュアルやルールへの組み込み
WBGT値に応じた対応行動を「ルール化」し、マニュアルとして整備することが実効性を高めます。
たとえば:
- WBGT28℃以上で作業時間を短縮し、休憩を15分増やす
- WBGT31℃を超えたら屋外作業を中止、室内作業に切り替える
- 日中のピーク時は若手とベテランを組ませて体調変化を監視
これらを社内ルールとして明文化し、ポスターや冊子、eラーニングなどで繰り返し周知することで、現場の安全行動が自然と根づいていきます。
教育・訓練との連携
WBGTの意味や対応行動を、従業員全員が理解していなければ、せっかくの仕組みも機能しません。
- 年1回以上の熱中症対策研修(WBGT含む)
- OJTでの新人教育にWBGTの読み方を組み込む
- 実際に起きた熱中症事例を題材にグループワーク
こうした教育施策を通じて、単なる数値ではなく「安全行動を導く情報」としてWBGTを活用できる現場づくりを進めましょう。
関連法令と今後の義務化への備え
暑さ指数(WBGT)は、企業にとって“努力義務”の枠を超え、2025年からは法的義務に関わる要素として明確に位置づけられつつあります。
労働安全衛生法との関連
厚生労働省が定める労働安全衛生規則により、作業環境の熱ストレスへの配慮が強化され、WBGTの測定・管理が“努力義務”から“義務”へと移行しました。特に屋外作業・建設現場・物流業・製造業などでは、具体的な対応マニュアルの作成や掲示が求められます。
また、従業員に対する教育の実施や、WBGTの数値に基づいた行動管理を怠ると、是正勧告・報告命令・最悪の場合は罰則の対象にもなり得ます。
行政ガイドラインと実務のすり合わせ
企業は、以下のような公的ガイドラインをもとに、自社の現場対応を見直す必要があります:
- 厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」
- 環境省「熱中症予防情報サイト」およびWBGT指針
- 都道府県・労働局が発信する地域別の注意喚起通知
これらに加えて、現場特性に合わせたWBGT活用ルールを策定し、掲示物や社内文書に反映することが「労働環境管理責任」の一環として求められます。
今後の流れに備えるには
2025年の法改正を皮切りに、暑さ対策は「災害対策の一部」から「企業文化の一部」へとシフトしています。
- 安全衛生管理体制の中にWBGT対策を組み込む
- 衛生委員会や現場責任者を通じて定期的に見直す
- 助成金・補助金の活用(空調設備、モニター設置等)
今後は、WBGT対応が「コスト」ではなく「信頼と安全の投資」として位置づけられる時代です。
まとめ 「気付ける現場」づくりは、WBGTから始まる
暑さ指数(WBGT)は、熱中症対策の「要」となる指標です。
単に数字を把握するだけではなく、それを根拠にした「行動の基準」として活用することが、企業としてのリスク管理・従業員の命を守る対策につながります。
この記事で紹介したように、WBGTの理解・測定・共有・ルール化・教育などを一つずつ積み上げていくことで、現場に「気づける仕組み」「動ける判断」が生まれます。
改正法令に備えるのはもちろん、従業員の信頼を得て、持続可能な職場を築いていくために——。
WBGTという「数値」を、職場の「安心と行動」に変える取り組みを、今こそ始めましょう。