「分からなかったら聞いてね。」
そう伝えたのに、部下は質問してこない。
そして仕事が終わってから見ると、やり方が違っていたり、もっと簡単な方法があるのに遠回りしていたりする。
「分からないなら、なんで聞かなかったの?」
と思うこともあるでしょう。
でも、部下が質問しない理由は一つではありません。
怒られそうで聞けない人もいます。
自分で考えるべきだと思っている人もいます。
そしてもう一つ。
本人が「自分は何を知らないのか」に気づいていないこともあります。
本当に知らないことは、質問することすらできません。
だから私は、「何でも聞いて」で終わらせるのではなく、どんなときに質問するのか、上司側も一緒に教える必要があると思っています。
部下が質問しない理由を決めつけない
部下が質問してこないと、
「やる気がないのか。」
「分かったふりをしているのか。」
と思うかもしれません。
でも、最初から態度の問題だと決めつけない方がいいと思います。
質問しない理由はいくつもあります。
- 「こんなことを聞いたら怒られそう。」
- 「上司が忙しそうだから声をかけづらい。」
- 「これくらい自分で考えるべきだと思った。」
- 「説明を聞いたときは分かったつもりだった。」
人によって理由は違います。
そして、新人や経験の浅い人には、
そもそも質問すべきことに気づいていないこともあります。
質問しない原因が違えば、上司側の対応も変わります。
だからまず、「なぜ聞かなかったんだ。」と責める前に、なぜ質問が出なかったのかを考えた方がいいと思います。
本当に知らないことは質問すらできない
私は長く現場仕事をしてきたので、昔はパソコンをほとんど使っていませんでした。
管理する側の仕事をするようになって、初めてExcelを使い始めた頃の話です。
シフト表を作るとき、
月、火、水、木、金……
1、2、3、4、5……
と、一つずつ手で入力していました。
それをしばらく普通にやっていたんです。
ある日、ほかの社員が私の作業を見て、
「これ、こうしたらいいよ。」
と、カチカチっと操作して、一気に入力して見せてくれました。
私は本気で、「パソコンすげええ!」と思いました。
今なら笑い話です。
でも当時の私は、
「もっと簡単に入力する方法はありますか?」
とは聞きませんでした。
なぜなら、
そんな方法があること自体を知らなかったからです。
本人の中では、「パソコンとは、こうやって一つずつ入力するものなんだ。」で完結しています。
困っている自覚すらありません。
こういうことは、新人教育でも起こります。
「分からないことがあったら聞いて。」と言われても、本当に知らない人には、
何を質問すればいいのかも分かりません。
だから、
質問がない=理解している
とは限りません。
質問がないというのは、
その人の中で、まだ疑問が発生していないだけということもあります。
「何でも聞いて」は意外と難しい指示
「何でも聞いていいよ。」
上司側からすると、親切な言葉です。
でも、新人にとっては意外と難しい指示でもあります。
どこまで自分で判断していいのか分からないからです。
何でも聞けば、
「それくらい自分で考えて。」と言われる。
自分で考えて進めれば、
「なんで確認しなかったの?」と言われる。
これが続くと、
「結局どっちなんだ。」となります。
私は、ここは上司側が境界を示した方がいいと思っています。
ただ「質問していい」と伝えるのではなく、
どんなことを自分で考え、どんなことは必ず確認するのかまで伝える。
そうしないと、新人側だけに判断を任せることになります。
でも、
その判断基準をまだ持っていないから新人なんです。
「ここは必ず聞く」を先に決めておく
私は、新しい仕事を教えるなら、
勝手に判断してはいけないところを先に伝えておく方がいいと思っています。
例えば、
- お客様との約束を変える。
- 金額を変える。
- 納期を変える。
- 仕様や条件を変える。
- 安全に関わる。
- ほかの人や部署に大きな影響が出る。
こういう部分です。
ここは「迷ったら聞いて。」ではなく、
「必ず確認してから進めて。」と伝える。
一方で、
- 資料の見せ方。
- 作業する順番。
- 軽微な工夫。
- 自分で考えても問題が起きにくい部分。
こういうところは、ある程度本人に考えてもらえばいい。
私は大きく、
自分で考えていいこと。
考えたうえで確認すること。
必ず確認してから進めること。
この三つに分けて教えると分かりやすいと思います。
何でも聞かせるのでもない。
何でも自分で判断させるのでもない。
仕事によって、確認が必要な場所は違います。
その境界を教えることも、仕事を教える側の役割です。
「質問ある?」だけでは理解は確認できない
仕事を説明したあと、「何か質問ある?」と聞くことがあります。
でも、先ほどのExcelの話と同じで、本人が知らないことに気づいていなければ、「ありません。」で終わります。
だから、初めて教える仕事なら、質問を待つだけではなく、こちらから確認してもいいと思います。
- 「じゃあ、最初に何をする?」
- 「ここで金額が違ったらどうする?」
- 「この場合は誰に確認する?」
- 「どこまで自分で判断していいと思う?」
こんなふうに聞けば、理解できているところと、まだ分かっていないところが見えてきます。
これは試験ではありません。
間違いを見つけて責めるためでもありません。
本人が気づいていない分からない部分を、一緒に見つけるための確認です。
特に初めてやる仕事では、「分からなかったら聞くだろう。」と待ちすぎない方がいいと思います。
質問の仕方も少しずつ教えればいい
質問するときに、「分かりません。」だけで来られると、上司側も困ることがあります。
だから、「自分で考えてから聞いて。」と言いたくなる気持ちも分かります。
ただ、これも相手の段階によります。
完全な新人なら、
「ここまでは分かりました。でも、ここからが分かりません。」と言えれば十分です。
少し慣れてきたら、
「ここまではこう理解しています。」
「私はAだと思うのですが、合っていますか?」
まで考えてもらう。
最初からすべての質問に自分の答えを持ってくるよう求める必要はありません。知識がなければ、考える材料そのものがないこともあるからです。
だから私は、部下の段階に合わせて、質問の仕方も少しずつ求めればいいと思っています。
最初は、どこが分からないのかを伝えられれば十分。
仕事に慣れてきたら、自分なりに考えたうえで確認するところまで求める。
上司側が少しずつ求めるレベルを上げていけば、質問すること自体が、部下に考える力を身につけてもらう練習になります。
初めての仕事は途中で確認する
部下に仕事を渡して、「分からなかったら聞いて。」と言ったまま、完成まで一度も見ない。
そして最後に、「全然違うじゃん。」となる。
これは、教える側としても避けたいところです。
特に新人や、初めてやる仕事なら、
「ここまでできたら一度見せて。」
と途中に確認ポイントを置く。
- 最初の方向性を見る。
- 半分くらいで一度見る。
- 完成前に確認する。
仕事によってタイミングは違いますが、全部終わってから見るより、小さな段階で修正した方が負担は少なくなります。
そして途中で見る意味は、間違いを探すだけではありません。
先ほどのExcel話のように、
本人は正しいと思っているけれど、もっといい方法があることもあります。
質問を待っていたら、そのことには気づけません。
上司から途中で仕事を見ることで、
「そこはこうした方が早いよ。」
「ここは確認しておいた方がいい。」
と、本人が知らない選択肢を渡すこともできます。
質問されたときの反応が次の質問を決める
質問しやすい環境を作りたいなら、質問されたときの反応も大切です。
勇気を出して質問したのに、
「そんなことも分からないの?」
「前にも言ったよね?」
「少しは自分で考えて。」
と毎回返されたら、次から聞きにくくなります。
ただし、何を聞かれてもすぐ答えを渡せばいいわけでもありません。
自分で考えられることまで全部答えていれば、「分からなければ、とりあえず聞けばいい。」にもなります。
だから私は、確認が必要なことなら答える。
本人が考えられることなら、
「あなたはどう思う?」
「前回はどうした?」
「どこまで分かってる?」
と返すこともあっていいと思います。
質問を歓迎することと、答えを全部与えることは別です。
聞くべきところでは聞く。
自分で考えられるところでは考える。
その区別を少しずつ覚えてもらうことが大切です。
まとめ|質問する人ではなく、判断できる人を育てる
部下が質問してこないと、「もっと質問してくれればいいのに。」と思うことがあります。
でも、質問の数を増やすこと自体が目的ではありません。
本当に知らないことは、質問すらできません。
逆に、何でも聞けばいいわけでもありません。
だから上司側も、
- どこは自分で考えていいのか。
- どこは考えたうえで確認するのか。
- どこは必ず聞かなければならないのか。
その基準を教える必要があります。
初めての仕事なら、質問が来るのを待つだけではなく、途中で確認する。
本人が知らない方法や、気づいていないリスクがあれば、そのときに教える。
そして少しずつ、自分で考える範囲を広げていく。
私は、「たくさん質問する部下」を育てることがゴールではないと思っています。
聞くべきところでは聞く。
自分で考えられるところでは考える。
知らないことを一つずつ知り、判断できる範囲を広げていく。
そこまでできるようになれば、質問の仕方も仕事の進め方も、自然と変わっていくと思います。

