「最近、どうもやる気が出ない。」
「部下に何度言っても、いまいち動いてくれない。」
そんなとき、
「もっとモチベーションを上げなきゃ。」
と考えることがあります。
でも、そもそも人は何があれば動くのでしょうか。
給料が上がればやる気が出るのか。
褒めればいいのか。目標を与えればいいのか。
私は、仕事や勉強をモチベーションだけに頼って続けるのは難しいと思っています。
やる気がある日もあれば、ない日もあるからです。
それでも、モチベーション理論を知る意味はあります。
「なぜ今、自分は動けないのか。」
「なぜこの部下は仕事に乗ってこないのか。」
その理由を考える材料になるからです。
この記事では、代表的な3つのモチベーション理論を、仕事で使える具体例と一緒に考えていきます。
モチベーション理論は「人が動く理由」を考えるもの
モチベーション理論とは、簡単にいえば、
「人はなぜ行動するのか」を考えるための理論です。
人が動く理由は一つではありません。
- お金が欲しい。
- 認められたい。
- できなかったことができるようになりたい。
- 誰かの役に立ちたい。
- 自分で決めたことをやりたい。
同じ会社で働いていても、人によって違います。
さらに、同じ人でもその時の状況によって変わります。
だから私は、モチベーション理論を、
「この理論どおりにすれば人が動く」というマニュアルとして使うものではないと思っています。
それより、「何が引っかかっているんだろう。」と考えるときの視点として使う。そのくらいが実用的です。
今回は、
- マズローの欲求階層説
- ハーズバーグの動機づけ・衛生理論
- 自己決定理論
の3つを見ていきます。
マズローの欲求階層説|今何が足りないのかを見る
モチベーション理論として有名なのが、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した欲求階層説です。
一般的には、人の欲求を次の5つに分けて説明します。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属と愛の欲求
- 承認の欲求
- 自己実現の欲求
よくピラミッドの図で紹介される理論ですね。
ただし、
「一番下を完全に満たしたら、次の段階へ進む」
と機械的に考えすぎない方がいいです。
現実の人間は、そんなにきれいに5段階を上がっていきません。
収入に不安があっても、仕事で認められたい人はいます。
人間関係で悩みながら、資格取得を目指す人もいます。
複数の欲求を同時に持つことも普通です。
では、このモチベーション理論を仕事でどう使うのか。
私は、
「今、何が足りなくて動きにくくなっているのか」
を考える材料として使うと分かりやすいと思います。
やる気がない原因は「やる気」とは限らない
たとえば、「最近、仕事にやる気が出ません。」という人がいたとします。
そのとき、
「もっと目標を持とう。」「成長を考えよう。」
と言っても、原因が別にあれば響きません。
毎日残業続きで寝不足なら、まず疲れているのかもしれない。
会社の業績が悪く、「この会社、大丈夫なのかな。」と心配しているのかもしれない。
職場で孤立しているのかもしれない。
仕事を頑張っても全く評価されず、
「どうせやっても同じ。」と思っているのかもしれない。
全部、「モチベーションが低い」という一言で片づけることはできます。
でも原因はまったく違います。
だから、やる気を上げる方法を考える前に、何が邪魔しているのかを見る。
マズローの欲求階層説は、その整理に使えます。
ハーズバーグ理論|不満を減らすこととやる気は別
仕事のモチベーションを考えるなら、ハーズバーグの
動機づけ・衛生理論も面白いです。
ハーズバーグは、仕事に関わる要因を大きく二つに分けました。一つが衛生要因。
たとえば、
- 給与
- 会社の制度
- 労働条件
- 上司との関係
- 職場環境
- 雇用の安定
などです。
もう一つが動機づけ要因。こちらには、
- 達成感
- 評価
- 仕事そのもの
- 責任
- 昇進
- 成長
などがあります。
ここで大事なのは、
不満を減らすことと、仕事への満足を高めることは同じではないという考え方です。
給与の不満に「やりがい」で返してもズレている
たとえば部下が、「給料が安いです。」と言っている。
それに対して、
「でも、この仕事にはやりがいがあるだろ。」
と言っても、たぶん話がかみ合いません。
本人が不満を感じているのは給与だからです。
逆に、
- 仕事そのものがつまらない。
- 何年働いても同じ作業。
- 何も任せてもらえない。
- 成長している実感もない。
そんな人に、
「給料を少し上げたから、もっとやる気を出して。」
と言っても、それだけですべて解決するとは限りません。
もちろん実際の職場では、人によって感じ方も違います。
それでも、「何に不満があるのか」と「何があれば仕事に前向きになれるのか」を分けて考えるという視点は使えます。
部下の「やる気がない」で終わらせない
管理する側からすると、「こいつ、やる気ねえな。」で終わらせるのは簡単です。
でも、それでは何も分かりません。
- 給与なのか。
- 労働時間なのか。
- 人間関係なのか。
- 評価への不満なのか。
- 仕事そのものに面白さを感じていないのか。
- もっと仕事を任せてほしいのか。
原因によって、対応は変わります。
だから部下のモチベーションが低いと感じたときほど、
「何が不満なのか」「何があれば前向きになれるのか」
を分けて聞く。
ハーズバーグのモチベーション理論は、そんな使い方ができます。
自己決定理論|人が自分から動きやすくなる3つの要素
3つ目は自己決定理論です。
現在も研究が続いているモチベーション理論で、人が質の高いモチベーションを持つためには、主に3つの心理的欲求が重要だと考えます。
それが、自律性・有能感・関係性です。
自律性|自分で選んでいる感覚
自律性とは、「自分の意思でやっている」と感じられることです。
これは、「好き勝手にやらせる」という意味ではありません。
会社なら当然、やらなければならない仕事もあります。
上司から指示されることもあります。
それでも、
「目的はこれ。ここまでは任せる。」
「この二つなら、どちらから進める?」
「どう進めるのがいいと思う?」
と、自分で考えたり選んだりできる部分は作れます。
逆に、「いいから黙って言われたとおりやれ。」しかなければ、仕事は完全に「やらされる」になりやすい。
同じ仕事でも、本人がどこまで自分で考えて動けるかで受け取り方は変わります。
有能感|前よりできるようになった感覚
有能感は、
「自分はできる」「前よりできるようになった」
という感覚です。
これは、私が部下を褒めるときにも大事にしているところです。
他人と比べて、「あいつよりできている。」と褒めるより、「前はここまでだったけど、今回はここまでできたな。」と本人の成長を見る。
- 最初は一人ではできなかった仕事ができた。
- 前回より早くできた。
- ミスが減った。
- 新しい仕事を任せてもらえた。
こういう「できた」が積み重なると、次もやってみようと思いやすくなります。
逆に、何をやっても怒られる。
できたことは見てもらえない。
いつまでたっても簡単な仕事しか任せてもらえない。
これでは、「自分は何をやってもダメなんだ。」となっても不思議ではありません。
関係性|自分がここにいていいと思えること
もう一つが関係性です。
職場でいうなら、周囲とつながっている、自分もこのチームの一員だと思える感覚です。
別に、みんなで仲良しになる必要はありません。
上司と部下が友達になる必要もない。
でも、
- 困ったときに相談できる。
- 質問したら答えてもらえる。
- 自分の仕事が誰かの役に立っている。
- 必要な情報を共有してもらえる。
そういう関係は必要です。
逆に、
質問しても無視される。
情報を自分だけ教えてもらえない。
何をしても認められない。
そんな職場で、「もっと主体的に働け。」と言われても難しいでしょう。
モチベーション理論を使えば人を操れるわけではない
ここまで3つのモチベーション理論を紹介しました。
でも、一つ注意したいことがあります。
理論を知ったからといって、人を思いどおりに動かせるわけではありません。
「この部下は承認欲求だな。」
「こいつには有能感を与えればいい。」
そんな単純な話ではないです。
人によって大事にしているものは違います。
同じ人でも、その日の状況で変わります。
だからモチベーション理論は、
答えではなく、考えるための材料として使う。
私はその方がいいと思います。
「やる気がない。」で終わらせず、
- 何に不満がある?
- 何を不安に思っている?
- できるようになっている実感はある?
- 自分で決められる部分はある?
- 周囲との関係はどう?
そんなふうに一つずつ見ていけば、少なくとも原因を考えることはできます。
自分のモチベーションにも同じ考え方が使える
この3つのモチベーション理論は、部下だけではなく自分にも使えます。
たとえば、「資格の勉強をしなきゃいけないのに、最近どうしてもやる気が出ない。」そんなとき。
いきなり、「根性が足りない。」と考える必要はありません。
単純に疲れているのかもしれない。
何のために取る資格なのか分からなくなっているのかもしれない。
勉強しているのに全然できるようにならず、有能感を持てなくなっているのかもしれない。
自分で決めた目標ではなく、「取れと言われたから」やっているのかもしれない。
原因が違えば、対処も変わります。
疲れているなら休む。
目的を見失ったなら、なぜ始めたのか確認する。
成長が見えないなら、過去問の点数などで変化を見る。
やらされているなら、その中で自分にとって何の意味があるのか考えてみる。
「モチベーションを上げる」より、「なぜ下がっているのか」を考える。
その方が具体的に動けます。
それでも毎日の行動はモチベーションに頼らない
ここまでモチベーション理論について書いてきましたが、最後はここです。
私はやっぱり、
毎日の行動をモチベーションだけに任せない方がいい
と思っています。
どれだけ理由を理解しても、今日はやる気がない。
面倒くさい。遊びたい。そんな日はあります。
それは普通です。
だから、
- やる曜日を決める。
- 時間を決める。
- 申し込んで逃げられなくする。
- 誰かに宣言する。
毎日の行動は、できるだけ仕組みにしてしまう。
モチベーション理論は、
なぜ自分が動けないのかを考えるために使う。
実際に続けるところは、
やる気がなくても動ける仕組みを作る。
私は、この二つは分けて考えています。
まとめ|モチベーション理論は原因を考える材料になる
今回紹介したモチベーション理論は3つです。
マズローの欲求階層説
今の自分や相手に、何が足りていないのかを考える。
ハーズバーグの動機づけ・衛生理論
仕事への不満と、仕事への満足を分けて考える。
自己決定理論
自律性・有能感・関係性という3つの視点から、人が自分から動きやすい環境を考える。
どの理論も、
「これをやれば必ずモチベーションが上がる。」という魔法ではありません。
でも、
「なんで動けないんだろう。」
「なんでこの人はやる気がないんだろう。」
と考えるとき、ただ本人の性格や根性のせいにするより、見るところが増えます。
そして原因がある程度見えたら、必要なところを変えてみる。
そのうえで、毎日の行動はなるべくモチベーションに頼らず仕組みにする。
モチベーションは、上げ続けるものではなく、必要なときに理由を考えるもの。
私はそれくらいの付き合い方でいいと思っています。




